第5回 SOEL COMMUNITY ミーティング開催レポート

開催テーマ
介護リフト、定着と仕組みづくり、その実践例

2026年2月13日(金)、東京・大手町とZoomのオンライン配信にて「第5回 SOEL COMMUNITY ミーティング」が開催されました。
今回のテーマは、『介護リフト、定着と仕組みづくり、その実践例』。

多くの施設がリフトの導入を検討しながらも、「現場が使ってくれない」「時間がかかる」「コストが見合うのか」という壁にぶつかります。

本ミーティングでは、これらの課題を精神論ではなく「仕組み」と「数値的根拠」で解決した3施設における先進事例が登場。
現場の苦労から定着に至るまでのリアルなプロセスと、そこから導き出された「経営的なメリット」について、熱い議論が交わされました。

Session1:事例発表
組織におけるノーリフトケア®推進 ~取り組みから事業所でのリフト活用定着に至るまで~

登壇者:
東京海上日動ベターライフサービス株式会社
介護付有料老人ホーム ヒュッテ目黒

支配人
永井 哲治 氏

トップバッターの永井氏は、2014年から始まった同社での推進活動における「初期のつまずき」について語りました。

導入当初、現場からは「自分の技術で十分」「準備に時間がかかる」という抵抗感が根強くありました。

そこで永井氏が打った手は、精神論での説得ではなく、「物理的に楽になる成功体験」を作ることでした。

転機となったのはコロナ禍明けのリスタートと、「浴室用床走行式リフト」の導入です。

これまで2名介助が必須だった入浴移乗が、リフト導入により「1名で、安全に、待ち時間なく」行えるように劇的に変化。

「1人でやるのは大変だから2人でやっていた業務が、機械を使えば1人で楽にできる」。この明らかな生産性向上を肌で感じたことで、現場の意識は「リフトがないと困る」へと変わっていきました。

都心の狭小地というハードルを、工夫と機器選定で乗り越えた事例は、多くの参加者を勇気づけました。

Session2:事例発表
セーフティケアの「見える化」と「仕組み化」 ~専門的評価·技術支援·機器活用による持続可能なケア~

登壇者:
社会福祉法人 神戸中央福祉会 特別養護老人ホーム
山手さくら苑

施設課長
新谷 和之 氏

続いて登壇したのは、神戸市の特養で施設課長を務める新谷氏。

同施設では「セーフティケア」を掲げ、リフトや見守りセンサー、インカム等のテクノロジーをフル活用しています。

特筆すべきはその「成果の検証」です。

感覚的な「良くなった」で終わらせず、JCLSが提供するM.I.Sによる客観的評価を導入。その結果、「腰痛症状の改善率59%」「夜間巡回業務時間44%減」「利用者の筋緊張緩和91%」という成果が見られました。

「自分たちだけでは評価が甘くなる。だからこそ外部のものさしを使う」という新谷氏。

数値を共通言語にすることで、職員の納得感を高め、経営層への説得材料とする「仕組み化」の重要性が語られました。

Session3:事例発表
ノーリフティングケア定着に向けての組織づくり ~利用者と職員への成果について~

登壇者:
長岡三古老人福祉会
介護老人保健施設てらどまり

副任理学療法士 兼 介護支援専門員
金子 純也 氏

3番手の金子氏は、豪雪地帯・新潟県長岡市にある施設の変革を語りました。

かつては「汗をかき、腰を痛めるのが介護の美徳」という精神論が支配していた現場。

そこで移乗ケアを見直し、床走行式リフトを活用した「持ち上げないケア(ノーリフティングケア)」を本格的に導入しました。

その結果、職員の腰痛減少はもちろん、利用者のADL(日常生活動作)が向上し、自分で食事が摂れるようになるなどの劇的な変化が生まれました。

さらに会場を驚かせたのは「人材確保への効果」です。

「ノーリフティングケアを実践している施設だから働きたい」という理由で実習生が就職を希望するケースが急増。

万年人手不足だった施設が、今では「若者が働きたいと選ぶ施設」へと生まれ変わった事実は、人材難に悩む業界への大きな光となりました。

パネルディスカッション:テーマ
リフト導入の「コスト・時間・ヒト」への疑問に答える ~現場と経営の視点から導き出す、運用の最適解~

ファシリテーター:
社会福祉法人こうほうえん
介護老人福祉施設
うきま幸朋苑

医務係長 理学療法士
持吉 孝郎 氏

パネリスト

永井 哲治 氏
新谷 和之 氏
金子 純也 氏

最後のセッションでは、ファシリテーターの持吉氏が提示した「うきま幸朋苑」のデータ(高いリフト稼働率と低い離職率の相関)をベースに、会場・オンラインからの質問に本音で答える議論が展開されました。

討論の冒頭、持吉氏は自施設における10年以上のデータ推移を提示しました。

リフト稼働率の向上と離職率は必ずしも同期しない現実の報告や、腰痛検診での「深刻な痛み」を訴える職員がゼロになった実績を紹介。

また、習熟が進むことでトイレ介助の所要時間が大きく短縮された計測結果を挙げ、「リフトは時間を奪うものではなく、正しく運用すれば効率と定着率を高めるインフラになる」と述べました。

続く議論では、導入過程での具体的な工夫や教訓が共有されました。

金子氏は過去の重大事故を契機に、休憩室へ「リフト使用チェック表」を掲示し状況を可視化する仕組みを作ることで、短期間で現場の意識を刷新させた経緯を語りました。

新谷氏は、リフトの活用でスタッフに生まれた時間的・心理的な余裕が、より深い利用者理解やADL(日常生活動作)向上へのアプローチに繋がっている点に触れ、テクノロジーがケアの質を担保する側面を強調しました。

また永井氏は、補助金情報を主体的に収集し、計画的に導入台数を増やすための「経営層への具体的な提案手法」を共有しました。

会場からは、導入後の具体的な運用や、リフトの価値を周囲(スタッフや経営層)にどう納得させるべきかといった質問が寄せられました。

リフトを「隠さない」逆転の発想

保管場所に悩む声に対し、永井氏は「あえて廊下など見える場所に置く」戦略を提示。

リフトを隠さず「ケアに不可欠なインフラ」として日常に位置づけることで、スタッフがその必要性を自身の言葉で説明できる環境を作り、施設への信頼へと繋げています。

リスク回避が最大の効率化

一時の「作業スピード」を優先して事故や褥瘡を招くことは、最大の時間的損失です。

パネリスト陣は、抱え上げによる利用者の筋緊張や二次的リスクを数値で示し、正しく使うことで「質の高い時間」を確保することこそが、長期的な最適解であるとの認識を共有しました。

✓導入のメリットを「体感」で伝える

リフトの魅力をスタッフ本人や周囲にどう伝えるかという問いに対し、新谷氏と永井氏は「人力とリフトの差を自分たちの体で体験してもらう」重要性を強調。

身体の楽さと安全性を実感することが、専門職としての誇りと、導入への納得感を生みます。金子氏は、こうした姿勢が採用力の強化に直結した実感を語りました。

終わりに

今回の事例発表やディスカッションを通じて、リフト導入は単なる機器の選定ではなく、組織の「経営戦略」そのものであるという事実が浮き彫りとなりました。

置かれた環境は違えど、共通していたのは「職員の安全を守ることが、質の高いケアと経営の安定に直結する」という強い信念です。

貴重なデータと「本音」の経験談を惜しみなく共有してくださった登壇者の皆様、そして業務ご多忙の中、会場やオンラインでご参加いただき、熱心な議論を交わしてくださった皆様に、心より感謝申し上げます。

本会での対話が、明日からの皆様の現場変革、そして持続可能なケア環境づくりの確かな道しるべとなれば幸いです。

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